取材で印象に残ったのは、センターが直面している諸問題は、現在のハードとソフトでは解決することが難しいということでした。では、どうすればいいか、ペットライフケアなりに考えてみました。
1.予算を確保できる可能性について
皆さんが口々におっしゃったのが、「予算がつかない」「予算があればできるのにないからできない」というつぶやきでした。何をするにせよ予算がなければできないのは道理なのですが、本当のところ予算はどの程度逼迫しているのか見てみましょう。
まず、センターが名古屋市の組織上どう位置付けられているのかを確認したところ、センターは名古屋市の健康福祉局健康部下の部署であることがわかりました。健康管理局の組織は下図をご参照ください。なお、詳細はこちらでご確認頂けます(名古屋市健康福祉局の組織と業務のご案内)。
動物愛護センターは、人間の健康福祉を管掌する組織の一部署として位置付けられています。健康福祉局の他の部署名を一覧すると、人間の高齢化がさらに進むこれからにかけて、ますます多額の予算が必要になるであろうことは想像に難くありません。この組織において、センターはほぼ唯一「動物のための部署」であり、優先順位は下位にならざるを得ないのかもしれません。
また、健康福祉局で使われる予算(歳出)は、年度予算一般会計の「健康福祉費」科目に計上されています。実際にどの程度の予算があるのかを見てみましょう。下図は名古屋市の予算の概要から作成したものです。なお、詳細はこちらでご確認頂けます(名古屋市政予算の概要)
平成17年度から22年度までの予算資料から、健康福祉費の金額と増減率をまとめたのが上図です。これを見ると、健康福祉費は18年度に大幅な削減が行われ2億800万円(当初予算額)となった後徐々に増額され、21年度は2億3600万円となっています。18年度からの歳出総額と健康福祉費の増加率を対比すると、健康福祉費の伸び率の高さは際立っていますが、高齢者福祉対策が年々増加していることが予算に表れているものと考えています。人間への対策が優先して行われていることは想像に難くありませんが、動物愛護センターへの予算配分の詳細は不明ですが、センターに関する予算案を2つを見つけることができました。
名古屋市健康福祉局の平成23年度予算案には、新規・拡充事業として「犬猫による迷惑防止対策」として、動物愛護推進協議会を設置し、動物愛護推進員を育成するほか、野良猫対策をすすめ犬猫の殺処分頭数の削減を推進するために3,400万円(一般財源額2,100万円)の予算が見積もられています。22年度予算額が800万円(同800万円)だったことに比べれば、実に4倍以上の予算が計上されており、名古屋市が動物愛護の推進と犬猫の殺処分頭数の削減に本腰を入れていることがわかります。
また、動物愛護の観点から犬猫の引取手数料を有料化(新設)し、所有者からの引取要請を防止することで殺処分頭数を減少しようという試みが2011年4月より開始されます。手数料は生後91日以上の犬又は猫は2,500円/頭(匹)、生後90日以下の犬又は猫 500円/頭(匹)です。なお、愛知県も2011年4月1日から犬猫の引取有料化を決定しています(手数料も同額)。
この取り組みで懸念されるのは「センターに引き取ってもらうのにお金がかかるなら捨てればいい」という不謹慎な人が増え、結果的に野良猫や野良犬が増えてしまうことです。このような人が多ければ、センターでの殺処分頭数は確かに削減できるのでしょうが、問題の本質的な解決には至りません。野良猫、とくに子猫が沢山引き取られる現状を改善するには、飼主不明な猫たちの繁殖を防止するための有効な手立てが必要です。動物愛護センターをはじめ、名古屋市にはこの懸念を払拭できる施策を打ち出して頂きたいと強く願わずにはいられません。今回の取り組みが、本当に動物愛護の推進と犬猫の殺処分頭数の削減に結びつくか、ペットライフケアは注視していきます。
2.動物との共生に資する適正飼養の普及状況について
次に、名古屋市民がペットとの共生に関してどう考えているのかについて見てみましょう。平成18年度、20年度及び22年度の名古屋市政アンケートにペット動物に関する調査がありました。詳細についてはこちらでご確認頂けます(名古屋市政アンケート、平成18年度第2回市政アンケート調査結果、平成20年度第1回市政アンケート調査結果、平成22年度第1回市政アンケート調査結果)。このページのグラフはペットライフケアが調査結果に基づいて新たに作成しました。
まずは動物を好きかどうか、そしてどんなペットを飼っているかについての調査結果をご覧ください。
3回の調査によれば、名古屋市民の40%程度は動物を好きであり、「どちらかといえば好き」の25%程度を加えると、全体の65%程度は動物のことを好ましく感じています。また、市民の35%前後がペットを飼っています。平成22年12月1日現在の名古屋市の総人口2,259,993人(1,019,859世帯)のうち、実に736,757人(332,474世帯;飼養率22年度32.6%で試算)の方がペットを飼っているということになります(※標本数が1,000件強なので、あくまでもご参考程度とお考えください)。
犬は約60%、猫は約80%の人が室内のみで飼養しています。特に猫の場合、市街地では室内での飼育が適正飼養の第一歩という考え方が徐々に普及しているものと考えられます。
ところが、ペットが普及した半面、動物によって被る迷惑も広がっています。犬と猫がもたらす迷惑について見てみましょう。
犬や猫によりなんらかの迷惑を感じた事がある人は60%以上いらっしゃいます。犬の場合は「糞尿の放置」「鳴き声がうるさい」が、猫の場合は「糞尿の放置」は犬と同じですが、猫特有の迷惑として「ゴミを荒らされる」「数が増えすぎる」ことがあげられています。
適正飼養の関連テーマとしては、昨今話題に上ることが多い「地域猫活動」に関する意識も調査されています。
80%程度の方が「地域猫活動のことを知らない」一方、野良猫を減らすためには効果的な活動だと考えている方は60%程度まで増えています。もっとも、この調査票には地域猫活動の定義が記されており、それを読んだ上での回答ですから、活動実態をきちんと理解している方ばかりではなさそうということは気に留めておくべきでしょう。
ちなみに、地域猫活動とは、名古屋市の定義によれば「飼主のいない猫の数を増やさないために、地域の合意のもとに、ボランティアや地域の方々が、避妊去勢手術をした上で、その猫が寿命を全うするまで、決められた場所での餌やりや糞尿の始末などをする活動(費用は世話をする方の負担)」とされています。
実際に地域猫活動が行われた場合、参加する方は全体の10%強(22年度)であり、半数以上の方は活動を見守り、明確に反対する方は6%程度という立場でした。態度保留の方も20%強あり、名古屋においてはまだ定着しているとまでは言えません。
こうした設問の影響もあってか、市民が名古屋市に対して期待する役割は、少々強権的な役割を期待しているという結果でした。
22年度の調査において市民が最も期待しているのは「犬の放し飼いやふんの放置などの迷惑行為に対する規制や指導を強化する」こと、次いで「飼主に対して人に迷惑をかけないよう配慮するなどの自覚を促す」ことでした。また、「ペット業者に対する規制や指導を強化してほしい」という声も増えています。飼主のマナー違反や迷惑行為と、ペット業者に対して今よりも厳しい態度で臨んでほしいという意見が多数を占めている状況をみると、「名古屋市にはペットの適正飼養に関してより厳しい規制や指導を期待する一方、自ら積極的にペットの適正飼養の定着に関わろうという意識はまだあまりない」という市民の考え方が見えてくるようです。
3.動物愛護センターの新たな取り組みについて
このような市民の考えを踏まえつつ、動物愛護センターが直面する課題を解決するための新たな取り組みとして、譲渡頭数を増やすことにより殺処分頭数を削減するための「譲渡ボランティア制度」を2010年7月に導入、2011年4月からは犬猫等の引取手数料の徴収を開始する予定(※PDFファイルp.55参照)です。動物愛護センターへの「入口」を絞って安易な犬猫等の引取頭数を抑制し、「出口」を拡げる=生命を救う仕組みを導入することにより、殺処分頭数の削減に関しては一定の効果が見込まれると考えられます。ここでは譲渡ボランティア制度について見てみましょう。
●「譲渡ボランティア」の概要(公式サイト)
飼主を募集する犬猫の中には、一般家庭への譲渡までに、訓練や治療等のケアーが必要なものや、長期にわたり飼主がみつからないものがいます。このような犬猫について、一時保護していただき、適切な飼主をさがして譲渡していただく譲渡ボランティア(団体・個人)を募集しています。概要をまとめましたので関心のある方はご一読ください。なお、ここに表記してあること以外にもご注意頂きたい点がありますので、詳細を知りたい方は必ず公式サイトをご覧頂きますよう、お願い致します。なお、2011年3月24日時点での譲渡ボランティアは8団体1個人(9月15日現在では11団体3個人)となっています(一覧表はこちら)。
譲渡ボランティアの登録基準
登録基準 | |
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共通事項 | ・センターの譲渡事業に協力し、新たな飼主探しを非営利活動として行うこと ・活動趣旨がセンターの実施する譲渡事業の趣旨と合致していること ・譲渡動物の保管にあたっては適正に飼養できる環境を有し、近隣の生活環境 に悪影響を及ぼす恐れがないこと |
団体 | ・譲渡等の際に団体の窓口となる指定メンバーを定めること ・代表者、指定メンバー及び一時飼養施設の管理責任者は成人であること ・代表者及び指定メンバーは、一般譲渡における飼主になるための要件及び 飼主の遵守事項を理解していること ・一時飼養施設の管理責任者は、譲渡動物を適正に取り扱う経験又は技能が あること ・代表者及び指定メンバーは、新しい飼主に対して、譲渡動物を適正に使用 するために必要な知識を狂時できること ・団体名、代表者氏名及び活動拠点を公表することに同意できること ・指定メンバーは、センターが実施する講習会を受講していること |
個人 | ・成人であること ・一般譲渡の飼主の要件及び飼主の遵守事項を理解していること ・譲渡動物を適正に取り扱う経験又は技能があること ・新しい飼主に対して、譲渡動物を適正に飼養するために必要な知識を教示 できること ・氏名及び活動拠点を公表することに同意できること ・センターが実施する講習会を受講していること |
遵守事項 | |
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共通事項 | ・法令等を遵守し、動物の健康及び安全を保持し、人への危害迷惑防止に 努め、新たな飼主に譲渡するまで責任を持って大切に飼養すること ・多頭飼養等で苦情の原因になる事態を生じさせないこと ・動物の一時飼養に関する近隣住民からの苦情及び新たな飼主への譲渡に 関する苦情を受けた時は、当センターに速やかに連絡すること ・当センターの譲渡事業に誤解を招いたり、支障をきたす行為は行わないこと ・成犬については譲渡を受けてから30日以内に、子犬については推定年齢 で生後90日を経過した日から30日以内に、犬の登録及び狂犬病予防注射 を実施すること ・他の譲渡ボランティアへの再譲渡は行わないこと。ただし、当センター所長 が必要と認める場合についてはこの限りではない ・一般譲渡の飼主の要件に適合し、一般譲渡の飼主の遵守事項を守ることが できる新たな飼主に譲渡すること ・新たな飼主に譲渡するときは、動物の譲渡を受ける者に、動物の気質・性質 及び飼養期間中の診療履歴を伝えるとともに、日常の飼養健康管理方法及び 適正なしつけ方について十分説明すること。また、マイクロチップの所有 明示の案内を行うこと ・新たな飼主に譲渡する時は、当センターが実施する講習会の受講を案内する こと。または、当センターの講習会を受講した者が当該講習会と同程度の 講習を実施すること ・新たな飼主が譲渡動物を飼育するにあたっての相談に応じること ・当センターが実施する譲渡ボランティアの実態調査に協力すること |
団体 | ・代表者は、各一時飼養施設で飼養可能頭数を超えないように管理すること |
動物の譲渡を受ける飼主の要件
一般譲渡の飼主の要件 | |
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共通事項 | ・市内在住であること。ただし、市内では適切な飼主の応募がなかった動物 についてはこの限りではない ・成人であること ・動物の飼養が可能な住宅に住んでいること ・飼主になることについて、家族全員の同意を得ていること ・万一、何らかの事情で譲渡動物を飼えなくなった時は、代わりに世話をする 人を決めること |
子犬の飼主 | ・センターで開催する子犬の飼主募集会に参加すること |
一般譲渡の飼主の遵守事項 | |
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共通事項 | ・法令等を遵守し、動物の健康及び安全を保持し、人への危害迷惑防止に 努め、責任を持って終生にわたり家族の一員として大切に飼養すること ・繁殖を防止すること。なお、犬及び猫については、避妊又は去勢手術を実施 すること。ただし、健康上等の理由で獣医師が実施できないと判断した場合 はこの限りではない ・名札等の外観から識別できる所有明示措置をすること ・譲渡後の飼養実態調査に協力すること |
子犬の飼主 | ・狂犬病予防法第4条第1項に定める登録をし、狂犬病予防注射を受けさせる こと。なお、登録及び狂犬病予防注射は、原則としてセンターで実施する ものとする ・散歩では排泄をさせず、自宅の一定の場所(トイレ)で排泄させるしつけを すること ・センターで開催する犬のしつけ方教室又はパピー教室に参加すること |
成犬の飼主 | ・狂犬病予防法第4条第1項に定める登録をし、狂犬病予防注射を受けさせる こと。なお、登録及び狂犬病予防注射は、原則としてセンターで実施する ものとするが、登録については犬の所在地が市外の場合はこの限りではない |
猫の飼主 | ・室内で飼養すること |